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仲の良い後輩が退職してしまった。

年齢は30台前半である。

暫くは失業保険で生活するらしい。

転職先は、ぼちぼち探すようで、無理して再就職はしないそうです。

焦って探したら、元の職場のようにブラック企業、ブラック部署にはまる可能性があるからだそうです。

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目次

 突然の退職

退職の相談は以前から受けていました。

我が社も世間の流行にもれずブラック企業である為、業務内容も相当きつかった。

サービス残業や休日出勤もあたりまえで、給料も安い。

そのため特に引き止めることはしませんでした。

本人も次の就職先が決まったら退職するとのことでした。

それが、急遽、転職先も決まらない状態で退職を言い出すようになり、彼の将来を案じた私は、退職を思いとどまるよう説得していた。

ちなみに、社内で退職の事を知っているのは、私だけである。

彼は年齢的には若いが、次の転職先も決まらずに辞めてしまうことは少なからずリスクが有ります。そのことを伝えたが、彼の口から衝撃的な答えが返ってきました。

「失業保険があるじゃないですか!」

確かにその手があった。完全に忘れていた。

失業保険はすぐには支給されないが、数ヶ月したら支給される。その資金で、暫くは生活に困ることはない。

更に、彼は未婚である。養わなければならない扶養家族もいない。

彼は更に言葉をつづけた。

失業保険を選択した理由

「こんな素晴らしい制度、利用しないでどうするんですか!」

確かに素晴らしい制度ではあるが、一生支給されるわけでもないし・・・

「こんな会社に搾取され続ける人生なんてゴメンです。すぐに辞めます。」

その舌の根が乾かぬうちに、彼は退職届を提出してしまった。

使用することが出来ない有給休暇がたんまりと残っていたため、退職届提出後、1週間もしないうちに彼はいなくなった。

せめて、1ヶ月はいてほしかった。引き継ぎもあるし。

コンサート会場のような盛況 

 退職してから暫くして、連絡があった。近況報告だった。

失業保険を貰うためには、ハローワークが主催する説明会のような催しに出席しなければならないらしい。その会場からの連絡であった。

「すごいっすよ!大盛況っすよ!」

何がすごいか良く分からなかったが、興奮した様子で話し始めた。

簡潔に説明すると、収容人数3000人~4000人規模の市内の大ホールが説明会場で、老若男女が所狭しと会場を埋め尽くし、説明が始まるのを今か今かと待ち構えている。

その様子は、アイドルの登場を待つコンサート会場の様だとのこと。

「みんな失業仲間っすよ!」

活気にみちた彼の言葉からは、失業した人間の不安はみじんも感じられなかった。

それよりも、これから訪れる明るい未来の幕開けを待ちきれない様子であった。

「みんな働けって!国が傾くぞ!そんな感じですよ。」

お前が言うな。のどまで出かかった言葉を飲み込んだ。

但し、浮かれてばかりはいられないと思う。失業保険にも支払われる限度がある。

支給されているうちに新たな職を探さなければならない。

あまり浮かれないように私は忠告した。

人生を楽にする究極の選択

「大丈夫っす!」

何が大丈夫か分からないが、イラつかせるノー天気な答えが返ってきた。

暫くリフレッシュして、心と体が回復したら転職先を真剣に探すよう促した。

すると、今度は彼がイラついた様子で答えた。

「 ナマポ 知らないんすか?」

ナマポ? ナマはダメだろ。きちんと火を通したり、あれをつけないと体に悪いだろう。

何を言っているんだコイツは。

そんな私の様子を悟ったのか彼が続けた。

「生活保護ですよ!国が保証してくれる制度ですよ!知らないんすか?」

その言葉を聞いた瞬間、私は崩れ落ちた。ヒザカックンをされたような感じだった。

「日本には、これからも養ってもらわなくちゃ!。日本 生きろですよ!」

日本には生きて欲しいが、お前は、クタ・・・

いかん、変なことを考えてしまった。みんな、生きろ!

生活保護は最後の手段では

「先輩や俺みたいに社会の底辺にいる人間は、低賃金で長時間こき使われて、一生搾取され続けるんですよ!そんな俺らが唯一救われる道がナマポですよ!。自由への扉ですよ!」

暫く言葉が出なかった。

 

自由への扉 いい言葉だ。

ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア

へんちく関係 トントントン いや、カンカンカン

 

更に彼は続けた。

「働いたって給料安いから結婚もできないし何もいいことは無い。だったら労働の束縛からは解放されたいじゃないですか。社畜開放宣言ですよ!」

 

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彼の言っていることは間違っているのか。

法的には問題ないだろうが、倫理的にどうなのか?

私も結婚していなければ同じ選択をしていたのか?

確かにこのまま働き続けても生活は楽にならない。働かなくても最低限の生活は保障してくれる生活保護。急に魅力的な言葉に聞こえてきた。

 

しかし、生活保護は最後の手段では。

会社が倒産して再就職が決まらない時などに頼る手段ではないだろうか。

この考えが間違っているのか・・・

 

ただ、彼はその道を選択するようだ。

「説明会始まるんで、切りますね」

電話が切られた。後味の悪い終わり方だった。

しかし、明るい未来が待っているかのごとき、軽やかな口調だった。

彼の選択が正しいのか、搾取される人生を選んでいる私が正しいのか分からない。

ただ言えることは、失業保険と生活保護の事は調べた方が良いという事だった。

 

備えあれば憂いなし。

 

働いても働かなくても底辺から抜け出せません。

このように問われたら、あなたはどちらを選択しますか?

私にはわからない。

友よ、答えは風に吹かれている。